
今回は、病院でリハビリを担当した選手です。
手術後から復帰までの流れを大まかに報告したいと思います。
当然ですが、術後の回復には個人差があります。
この選手よりも速く復帰できる選手もいれば、もっと時間のかかる選手もいます。
術後のイメージとしてご覧ください。
目次
ケース情報
- 年齢:高校1年生
- 性別:女性
- 競技:バスケットボール
- ポジション:センター
- 練習頻度:週6回 3時間程度 月曜日は休み
- これまでの怪我:膝前面部痛
経緯
練習中のリバウンドで着地失敗し、膝外反強制。POP音(本人が感じるACLが切れる音)あり。
プレー困難だが、なんとか歩ける状態。痛み、腫れ強く生じた。
翌日、近医受診しACL損傷の疑いで、その翌日当院受診。
MRI、徒手検査にてACL断裂と診断され、術前リハビリ開始。
2ヶ月後の夏休み期間中に手術が決定し、それに向けて可動域訓練、筋力訓練を実施。
手術1ヶ月前には日常生活に問題がないほど回復したが、術後の事を考え、さらなる筋力訓練を実施。
手術前の筋力検査では左右に差がないほどに回復。
夏休みのはじめに手術。
手術の情報
手術方法:関節鏡視下靱帯断裂形成手術
再建靭帯:再建靭帯の採取部は内側ハムストリングスの腱(半腱様筋腱)を使用
術中所見:ACLは完全に断裂、半月板は問題なし。
術後指示:荷重制限は必要なし
治療経過
術後1週間
術後翌日からリハビリを開始。まずは炎症管理のもと歩けることを目指す。
- 炎症
手術翌日から1週間は非常に腫れが強く、熱感も強かった。RICEを中心とした炎症管理を徹底することで、徐々に炎症は引いていった。
膝全体に痛みがあり、膝裏やふくらはぎにかけて内出血が広がっている状態。これも時間とともに減少していった。
- 可動域
術後翌日から膝の曲げ伸ばしを始めたが、当初痛みのため屈曲40°、伸展−10が精一杯という状態。日を追うごとに可動域は改善したが、1週間後では屈曲100°、伸展−5°程度であった。
- 筋力
大腿四頭筋の筋力は術後3日目からやっと収縮するようになった。それまでは力が入らない状態であり、本人も混乱していた。麻酔の影響と、腫れにより術後はどうしても力が入りにくくなる。
1週間でSLR(膝を伸ばしたまま持ち上げる)がなんとか可能となった。
- 日常生活動作
当初痛みにより体を動かすのも大変だったが、1週間で両松葉杖で歩けるほどになった。体重をかけることに対する不安感も減少した。
術後2週間
- 炎症
腫れはほとんどなくなったが、熱感はまだある状態。痛みも動かさなければない。
- 可動域
屈曲130°、伸展0°(長座位で膝の裏が床につく状態)まで回復。屈曲の最後に膝の前が少し突っ張る感じがある程度。
- 筋力
膝がしっかり伸びてから、大腿四頭筋にグッと力が入るようになる。SLRも十分可能となる。
- 日常生活動作
一応片方松葉杖をついて生活しているが、リハビリでは片足立ちなどの練習も始めた。杖をつけば、スタスタと歩ける状態。杖なしだと少しふらつく様子。
術後1ヶ月
術後約3週間で退院し、自宅生活(夏休み中のため)が始まった。基本的には自宅安静だが、15分程度の連続歩行は問題なく可能。自宅での自主練習と、外来リハビリに通ってもらう。
- 炎症
自宅に帰った後に少々腫れたが、次の外来では腫れはない状態になっていた。熱感はまだ少しあるが、生活で痛みを感じることはないとのこと。
- 可動域
屈曲135°、伸展0°。屈曲の最後に膝の前が少し突っ張る感じもなくなり、長座位でスッとスムーズに膝の曲げ伸ばしができるようになった。
- 筋力
ももの前にシワが寄るほどに力がぐっと入るようになった。太さに関しては左右差があるが、筋力はしっかりとしてきた。
- 日常生活動作
階段の降りだけまだうまくできないが、その他の日常生活動作は問題なく可能となる。胡座(あぐら)や横座りなどは禁止事項であるため、注意を促す。
術後3ヶ月
可動域(135°/0°)と筋力が回復し、日常生活も問題なく可能となる。
状態良好で、基準(当院独自のジョギング開始基準)にクリアしたためジョギングが許可された。
- 筋力
反対側の大腿四頭筋の6割以上の力が発揮可能。片足立ち、スクワット、小さくケンケン等、安定して可能となる。
- 日常生活動作
階段の降りる動作も安定して可能。日常生活では全く問題ない。
- スポーツ動作
ジョギング開始。ジョギングレベルでも術側の足がまだスピードについてこれない。股関節筋が弱く体幹がブレる。
術後4ヶ月
反対側の大腿四頭筋の7割近くの筋力が発揮できるようになった。ジョギングは安定し、徐々に加速走やステップのリハビリが許可された。
- スポーツ動作
ジョギングは安定し、そのレベルであれば、体幹のブレもほとんどなくなった。
加速走では不安感あるも、体育館の別メニューで徐々に慣れていった。
急な動き(スタート、ストップ)などはまだ危険なため、禁止動作としていた。
ステップ動作の練習ではKnee in傾向があるため、再受傷のリスクが高いこと説明しゆっくり慎重に進めることとした。
術後6ヶ月
ダッシュやジャンプなどのスポーツ動作がある程度安定してきたため、競技特異的動作のリハビリが始まった。
対人以外の練習は徐々に許可され、アップメニューなどは8割程度はこなせるようになっている。
- スポーツ動作
基本的なステップやダッシュ、ジャンプなどにおいてKnee in傾向が減ったため、強度を上げてリハビリに取り組んだ。大腿四頭筋の筋力はほぼ左右差がないほどに回復していた。
ダッシュからのストップ動作においてやや不安感が残存していた。
- 競技特異的動作
体育館の練習に混ざり始めるに当たり、対人の準備として「意図しない動作」への対応のリハビリに取り組んだ。
身体をぶつけるなどのコンタクトの練習も徐々に開始。
シュート練習(レイアップも含め)は強度の強いもの以外はできるようになり、本人のストレスも少なくなってきている様子。
術後8ヶ月
対人練習を本格的に取り組み始め、恐怖心はほとんどなくなっている様子。
セルフケアを怠ると、膝前面に疼痛が出ることがあるため、セルフケア(エクササイズも含め)は継続させることを約束。
練習の中では5対5なども許可される。
- スポーツ動作
ダッシュ、ジャンプ、ステップ、ターンなどはほとんど問題なく可能。恐怖心もほとんどなし。
ただ、ケガ前から比べると8割り程度のパフォーマンスとのこと。
- 競技特異的動作
リバウンドなど時々怖いこともあるが、問題なく対人も可能。
ディフェンスの1步が出ない、転ぶのが怖いなどの訴えあり。
術後10ヶ月
練習試合に出場し問題なくプレー可能。
出場時間も延びていき、完全復帰。パフォーマンスは9割程度とのこと。
手術した脚のケアやエクササイズは引退するまで続けることを約束し、定期的な外来リハビリは終了。
まとめ
この選手の場合は幸い、手術で半月板の処置が必要なかったためリハビリも比較的スムーズに進んだ。
しかし、非接触型損傷であることから、もともと膝を内に入れる(Knee in )の癖があり、その修正には時間をかけて丁寧にリハビリを進めた。
チームや保護者の協力も得られ、無理に復帰を急ぐことなくリハビリができたことが良い結果につながったと感じる。
いかがだったでしょうか。
前十字靭帯再建術後の、ある女子選手が復帰するまでの流れでした。
復帰までには時間がかかり、本人の努力と指導者、保護者の理解・協力が必須です。
ぜひこの記事を読んで、イメージしてみてください。
長文失礼いたしました。