
今回は病院で担当させていただいた選手です。
ケース情報
- 診断名:アキレス腱断裂
- 年齢:40歳
- 性別:男性
- 競技:バスケットボール
- 練習頻度:週1回 2時間程度
- これまでの怪我:捻挫、前十字靭帯断裂
- 要望:バスケット復帰
経緯
子どもがミニバスを始め、自分もお父さんチームとしてバスケをするようになる。
現在も週1回はバスケをする。
いつものように準備体操を行っている途中で足を後ろから蹴られたような衝撃があり、その後プレー困難。
その日は、なんとか歩いて帰ったが、翌日の病院でアキレス腱断裂の診断を受け、当院に手術目的で紹介。
手術は無事に成功し、その後ギプス固定のまま退院。
2週間ギプス固定を行い、診察にてギプスカットと抜糸。
その後、装具を装着しリハビリ開始。
治療経過
術後2週間
術後2週からリハビリを開始。
かかとの高い装具を装着し、荷重開始。
足首の運動も開始。
- 炎症
炎症所見はなし。痛みもなし。
- 可動域
背屈−15°、底屈45°。足の指の動きも良好。
- 筋力
ふくらはぎの筋肉にはほとんど力が入らない。
- 日常生活動作
装具装着により体重がかけられるようになったため、片松葉杖での歩行が可能となる。
術後3週間
- 可動域
背屈−10°、底屈45°
- 筋力
ふくらはぎに力が少し入り始める。
- 日常生活動作
装具装着し、杖なしで歩行もできる。電車での通勤も可能となる。
術後1ヶ月
装具のかかとの高さを徐々に下げ始め、装具をしない状態での歩行を目指したリハビリを開始。
- 可動域
背屈−5°、底屈45°
- 筋力
ふくらはぎの筋肉が盛り上がる程度には力がはいるようになる。つま先を尖らせた状態で力を入れる練習を自主練習として指導。
- 日常生活動作
装具装着可であれば日常生活には問題ない。
術後2ヶ月
超音波検査にてアキレス腱縫合部がしっかりと付いていることを確認。
装具がなくなり普通の靴となる。
ふくらはぎの筋肉強化訓練が本格的に始まる。
- 可動域
背屈5°、底屈45°
- 筋力
両足でのかかと上げが可能だが、身体が手術していない方に傾く。まだ、術側で体重をのせて力を入れることに不安感がある。
- 日常生活動作
普通の靴での歩きでは、ややかかとの上がりが遅く、ヒョコヒョコと歩く。
仕事の関係で歩き過ぎるとアキレス腱付近に痛みが出ることもある。
術後3ヶ月
状態によってはジョギングなどが許可される時期であるが、当Caseはふくらはぎの筋力回復がやや遅く、ジョギングは許可されなかった。
再断裂の可能性も考えて、しっかりと片脚のかかと上げができるまではジョギングしないという共通意識のもとリハビリを継続した。
- 可動域
背屈10°、底屈45°。
背屈は非術側と同じ可動域を獲得した。
- 筋力
片脚でのつま先立ちは困難。かかとは2cm程度は上がるが、膝が曲がってしまうなどの代償動作がみられる。
かかと上げやチューブトレーニングを中心としてふくらはぎの筋力トレーニングを敢行。
- 日常生活
階段の下り動作のみが困難であり、踏ん張らずにヒョイっと降りてしまう状態。
ふくらはぎの筋力低下により体重が支えられない。

活動量が増えてきて、少し自信がついてきた辺りが危険なのです!!
術後4ヶ月
片脚のかかと上げが十分にできるようになり、ジョギングが許可された。
当初不安感はあったが、疼痛なく距離や速度も上げることができ、久しぶりに体育館での軽いシュート練習も可能となった。
- 可動域
左右差なし。
- 筋力
片脚かかと上げ安定して可能。疼痛、不安感なし。
少々反動をつけたかかと上げも可能。
- スポーツ動作
ジョギング許可。疼痛なく可能。
両足の小ジャンプであれば安定して可能。
- 競技特異的動作
ゆっくりとしたサイドステップや、方向転換動作の練習。
レイアップは禁止。その場で軽いシュート練習のみ許可。
術後6ヶ月
100%のダッシュやジャンプ、方向転換以外の動作はほぼ許可された。
練習後にはアキレス腱に疼痛が生じることもあるが、ケアで対応できる。
対人練習はまだ不安感のためにできていない状態。
- スポーツ動作
加速走ができるようになり、減速動作も不安感なくできるようになってきた。
片足ジャンプはまだ着地音やリズムなどに左右差がある状態。
- 競技特異的動作
レイアップも徐々に許可され、バスケらしい動きができるようになってきた。
100%の対人練習は不安感のためできないが、軽いディフェンスであればできる。
術後10ヶ月
対人練習ができるようになり、軽めにゲームなどにも混ざれるようになった。
試合に出場はしていないが、週1回のバスケを楽しむレベルでは十分なレベルにまで到達。
片足ジャンプはまだ左右差があるが、不安感も減っている。
このままセルフエクササイズを継続することを約束し、リハビリ終了。
まとめ
アキレス腱断裂術後のリハビリは対象が中高年のことが多く、活動量調整やリハビリ頻度などの面において難しい印象があります。
また、当Caseのようにレクリエーションのレベルであってもスポーツへの復帰が目標となることもあり、単にネット上にあるリハビリプロトコールに沿ってリハビリを進めると、その人の体の特徴(年齢、硬さ、運動レベルなど)にフィットせずに痛みが残存したり、最悪の場合再断裂などのリスクもあります。
まずは、しっかりと断裂した腱がくっつくことが重要であり、その後、可動域や筋力に合わせて活動量などを上げていく事が必要となります。
当Caseでも、筋力回復に合わせてジョギングの許可を遅らせたり、トレーニング量を調整したりと患者−医師−理学療法士の連携がなければ、どうなっていたかわかりません。
これは、手術療法でも保存療法でも同じことだと思います。
いかがだったでしょうか。
アキレス腱断裂術後の、ある選手が復帰するまでの流れでした。
治癒過程やリハビリの進み具合には個人差があります。
決して焦らず、専門家と連携を取りながら復帰を目指せるのがベストでしょう(^^)
長文失礼いたしました。