
こんにちは。
とても残念なニュースが飛び込んできました…。
日本代表でも活躍する、川崎ブレイブサンダース#14辻直人選手の負傷が公式に発表されました。
負傷の詳細は、左肩関節脱臼とのこと。
この怪我は一体どういったケガなのでしょうか。
今回はこの「肩関節脱臼」について記事にしていこうと思います。
目次
肩関節脱臼とは
「肩関節脱臼」、聞いたことはあるかもしれません。
つまり「肩がはずれる」ことなのですが、そこには解明されている病態やメカニズムがあります。
簡単に紹介していきます。
肩関節脱臼の病態
肩関節の脱臼は、肩甲骨と上腕骨によって形成される「肩甲上腕関節」がズレることで、関節がはずれてしまうことを言います。
多くの場合は強い衝撃によって生じ、スポーツではアメフト、ラグビー、格闘技などコンタクトスポーツによく起きるスポーツ外傷です。
もちろん転ぶなどして地面に手をついた衝撃で脱臼する人もいます。
肩の解剖
肩甲上腕関節はその構造上、大きな可動域を出すことができるのですが、その反面とても不安定な関節であるとも言えます。
肩甲上腕関節は肩甲骨の関節窩と上腕骨の骨頭によって成り立っていますが、その接触面は非常に小さく、とても安定しているとは言えません。

この不安定な関節を補うために肩甲骨側の関節面には関節唇という土手のような構造があります。

これによって、肩は簡単に脱臼することなく動くことができるのです。
しかし、強い衝撃が加わるとこの土手が壊れ、骨頭が関節面から逸脱します。

これが脱臼です。
つまり脱臼とは、この土手の破壊を意味するものでもあります。
この破壊された土手は適切な処置がされないと壊れたままとなり、何度も脱臼を繰り返す肩になってしまいます。

肩関節脱臼のメカニズム
実は肩関節脱臼には方向があります。
脱臼の95%は前方(お腹側)に脱臼すると言われています。
動画で見てみましょう。
英語ですが、1:50〜前方に抜ける脱臼の説明が始まります。
よかったら見てみてください。
動画でも紹介されている、③つの関節の複合運動が肩関節を前方に脱臼させるということです。

もちろんこの③つの動き全てを伴わなくても、
図のような強い衝撃が加われば、まるでテコの原理のように前方に外れてしまいます。

これが肩関節前方脱臼のメカニズムになります。
治療方法
では、脱臼してしまった場合はどのようにして治療していくのでしょうか。
治療方法は大まかに「手術療法」と「保存療法」があります。
手術療法は手術をして壊れた土手を修復する方法であり、
保存療法は手術をせず、自らの治癒能力で壊れた土手の修復を目指す方法です。
骨折とは違い、骨が付けば復帰といった単純な過程ではないので、治療には慎重な判断とそれなりの我慢が絶対に必要になります。
ただ、肩関節脱臼の場合、そういった2つの治療法の選択の前に非常に重要なことがあります。
見ていきましょう。
脱臼直後から数週間まで
実際に脱臼すると、先ほど紹介した図のように関節面が逸脱してしまっているので肩を動かすことができなくなります。
そしてかなりの痛みがあるそうです。
なので、まずすべきことは脱臼した肩を整復することです。
現場に整復経験のある医師や柔道整復師がいればその場で整復してしまうこともあるようですが、いない場合は救急車で病院に運ばれ、病院で整復することもあります。

痛みで筋肉が硬直してしまい、麻酔をかけて整復するケースもあるようです。
では、脱臼が整復されればもう大丈夫なのでしょうか。
実は、決してそんなことはなく、むしろ整復されてからの処置が今後の治療方針を決めるほどに重要です。
まず、脱臼をしたということは先程も書きましたが、土手の構造が破壊されている可能性が非常に高いです。
そして、土手だけでなく脱臼をさせないためについている肩周囲の靭帯などもそれなりに傷んでいます。
つまり、たとえ上手に整復ができたとしても、脱臼をさせないための構造がほとんど壊れているということです。
なのでそのまま放置していると、何度も脱臼を繰り返す肩になってしまいます。
こうなってしまっては、もう手術するしかありません。
そのため脱臼してから数週間は安静と固定が必要になります。
ハマったからもうバスケできる!というわけではないのです。
初期固定の徹底を!
「脱臼=手術が必要なケガ」ではありません。
どういうことかと言うと、
脱臼によって損傷した組織は、受傷後しっかりとした固定をすることで、ある程度もとの安定性を取り戻す可能性があります。
つまり、しっかりと固定をしていれば衝撃によって剥がれた土手や靭帯がそれなりに修復するということです。
元通りとはいかなくても、ある程度修復することで簡単に脱臼を繰り返す肩になることを防ぐことはできます。
重要なのは、「初めて脱臼した時にしっかりと固定をすること」です。
残念ながら2回、3回と脱臼してしまう肩に固定をしても、すでに脱臼のルート(抜けやすさ)ができてしまっているため再度安定した肩になることは難しいと言えます。
大事なことなのでもう一度いいますが、重要なのは「初めて脱臼したときにしっかりと固定をすること」なのです。
どれくらい固定するかということに関しては、病院ごとに異なると思われますが、3週〜4週は固定することが多いようです。

といっても、初回脱臼後の固定がしっかりとできたとしても手術をしないで大丈夫とも言い切れません。
それは、脱臼による土手や靭帯の損傷程度がひどいと自然修復では安定性を取り戻せないことがあるからです。
そういった場合は手術になります。
また、競技によって、例えば再脱臼の可能性が高いスポーツ競技者の場合は手術によって最初からしっかりと固定するという判断をする場合もあります。

辻直人選手の治療方針は?
さて、本題である辻選手の脱臼ですが、公式の発表では復帰まで2〜3ヶ月の見込みとされています。
ということは、
おそらく手術療法ではなく、初期固定による自然修復で復帰を目指す、保存療法の方針であるということでしょう。
手術にならなかったのは、
- 初回脱臼であること(おそらく)
- 損傷がひどくなかったこと
- 競技的にラグビーのように再脱臼のリスク高くないこと
- 早期の復帰を希望していること
これら4つのことを医師、本人、チーム、トレーナーが話し合い、手術療法よりも保存療法で復帰を目指すほうがメリットが大きいと判断したからだと思います。
もちろん再脱臼のリスクを最も低くする治療は手術療法ですが、
先程も書いたように、初期固定がしっかりとできればそれなりに安定した肩に戻ることができます。
とはいっても復帰に向けては、やはりリハビリが非常に重要なポイントになることは間違いないです。
リハビリ
今回は保存療法の場合のリハビリについて簡単に紹介していこうと思います。
安静・固定の時期
何度も書きますが、脱臼を整復してから数週間は固定することになります。
もちろんその間、腕は使えなくなるので安静にして自然治癒に任せます。
ただ、安静・固定したいのは「肩甲上腕関節」のみであって、他の部位は硬くなったり、弱くなったりしないように動かしておくことが理想です。
とくに、「肩甲上腕関節」の土台となる肩甲骨や背骨などの動きはとても重要なので、早期からリハビリが始まります。
下肢や心肺機能に対して、エアロバイクなどの運動も肩の痛みが落ち着いた段階で実施しているかもしれません。
ただ、絶対的に優先されるべきは「肩甲上腕関節」の安静と固定となります。

可動域の改善の時期
安静と固定の期間が終了すると、まずは肩関節の可動域を取り戻すリハビリが開始されます。
肩関節は脱臼整復後から数週間動かしていないため、ある程度の硬さが生じています。
これをケガする前のように動く肩にしていくわけです。
方は様々な方向に動くことのできる、可動域の非常に大きな関節なのですが、
脱臼後の可動域拡大に関しては注意すべきことがあります。
それは、脱臼のリスクのある方向への可動域は慎重に拡大していくということです。
具体的には 1st外旋、2nd外旋といった外旋の動きです。
この可動域をガバガバと早期から拡大してしまうと、せっかく固定して修復した組織がまた損傷する恐れがあるのです。
かならずリハビリの専門家と可動域訓練を行うことをオススメします。
筋力の改善の時期
可動域がある程度回復してくると、次は筋力を回復させる事が重要になってきます。
脱臼による痛みや安静固定によって筋力はガクッと落ちてしまいます。
再脱臼の予防のためにも筋力の回復は非常に重要な要素となります。
この両者は完全に分離することはできず、どちらも並行しながらリハビリが行われます。

ローテーターカフの筋力回復
脱臼後の筋力回復に重要なのは「ローテーターカフ」と呼ばれる小さなインナーマッスルたちです。
これらの筋肉は肩甲骨と上腕骨の骨頭の適合性を高めてくれます。
なので、これらの筋肉を強く、より良い状態にすることで再脱臼のリスクを減少させ、肩自体の機能も良くなっていくのです 。

肩甲骨周囲の筋力回復
そしてもう一つ重要なのが肩甲骨周囲の筋肉です。
肩甲骨は肩甲上腕関節の土台となる骨であり、それを支える筋肉は非常に重要です。
肩甲胸郭関節で行われる、内転や外転などの動きをしっかりともとに戻すことは前提として、
より強く安定させることが再脱臼の予防に繋がります。
実際のリハビリではこの肩甲胸郭関節の機能改善が肝となる部分です。
競技動作へ
肩の可動域や筋力がある程度回復し、日常生活のレベルでは全く問題がなくなったあたりから競技に向けたリハビリが開始されます。
例えば、脱臼した腕で体重を支えたり、メディシンボールを投げたり、可動域、筋力ともに肩にかける負担が大きくなっていきます。
辻選手の場合はバスケットボールを使ったドリブルやパス、シュートなど基本動作から、最終的には相手との接触を想定したリハビリも行われるでしょう。
ただ、これぐらい動けるようになったとしても、再脱臼の恐怖心はまだ残存していると思います。
そういった面でも、焦らず一つ一つリハビリをしていくことがとても重要となるでしょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
肩関節脱臼について解説してきました。
バスケ界ではあまり馴染みのないケガかもしれませんが、かなりの大ケガに分類されるものです。
辻選手には焦らずじっくりリハビリを頑張って欲しいですね。
辻選手頑張ってください!!応援しています!!
- 整復したから大丈夫なケガではない
- 100%手術が必要なケガではない
- 初回脱臼時の固定がとても重要
- リハビリは決して焦らず、一つ一つ乗り越えていく