スポーツテストのすゝめ 前十字靭帯再建手術からの復帰に向けて

こんにちは。

競技者にとってスポーツテストがどれだけ重要なのかについて記事にしようと思います。

今回は前十字靭帯断裂(ACL断裂)からの復帰をメインにその重要性について書いていきます。

お時間のない方は目次から「スポーツテストのすゝめ」までジャンプして下さい(^^)!

ACL断裂と手術

ACLを断裂するとスポーツ復帰には再建術が必要とされています。

手術なしで靭帯を治そうという動きもありますが、現在のスタンダードは手術による靭帯の再建です。

以前は競技人生の終了を告げるほど大怪我でしたが、最近では手術法の確立やリハビリテーションの向上によって多くの選手が競技に戻れる怪我となりました。

復帰に向けたプロトコールに関しては、以前ほど早期復帰(術後6ヶ月〜)を目指すことが減って、より長期的なリハビリを行ったほうが良いのでは?というような動きも出てきている印象があります。

再建した靭帯が元の状態に戻るには2年ほどかかるとされており、それ以前の復帰はやはりリスクを伴うものだと言う医師もいます。

参考文献を載せておきます。

Should Return to Sport be Delayed Until 2 Years After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction? Biological and Functional Considerations. 

Nagelli, C.V. & Hewett, T.E.. Biological and Functional Considerations. Sports Med. 2017 Feb;47(2):221-232.

こちらでわかりやすく解説してくださっています。

ACL術後の復帰率

術後のリハビリによって多くの選手が競技に戻っていると書きましたが、具体的な復帰率はどの程度なのかを調べてみました。

2019年の10月に出された海外の報告によると、217人の患者のうち8割はスポーツに復帰できたそうです。

ただ、元のスポーツレベルに戻れたのは5割にとどまったそうです。

Return to Play and Long-term Participation in Pivoting Sports After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction

Lindanger L, Strand T, Mølster AO, Solheim E, Inderhaug E. Am J Sports Med. 2019 Oct 21

別の報告も見てみました。

これは理学療法診療ガイドラインと呼ばれるものです。

そこでは、やはり8割の患者がスポーツに復帰し、術後1〜2年の経過で50〜60%の患者が元の競技レベルに戻れるようであるとしています。

理学療法ガイドライン第1版 ダイジェスト版

http://www.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/guideline/Guideline-QandA-Digest2.pdf

手術をすれば自動的に復帰できるわけではない

どちらの報告も術後8割の患者はスポーツに復帰できますが、元の競技レベルとなると5割程度であるとしています。

つまり残りの5割の選手は何からの理由(多くは不安感、痛み)で元のパフォーマンスには戻れなかったということです。

皆さんはこれをどう感じますか?

実際に術後の患者を見ている私としては妥当な数字かなという印象があります。

術後のリハビリは選手にとって、とても長い道のりです。

モチベーションを維持するには相当なアスリート魂を必要とします。

いくら手術法やリハビリなど選手を取り巻く環境が良くなったとはいえ、手術を受ける選手は元のレベルの復帰を目指すなら相当な覚悟と努力が必要になるのです。

さて、少し話がそれましたが、

一体これがスポーツテストの重要性とどう関係していくのでしょうか。

ここからが本題です。

何をもって以前のレベルなのか

ACL術後の復帰に関する報告は山ほどあるわけですが、何を持って復帰のレベルを評価しているのでしょうか。不思議に思ったことはありませんか?

紹介した報告でも、5割は元のレベルに戻れたとしていますが、何を持ってそれを評価したのでしょうか。

怪我前に所属していたチームに合流し、試合に出れれば同じレベル?

それともパフォーマンスの自己申告?本人が「もとに戻りました!」といえば元の競技レベルでしょうか?

実際に、紹介した2019年10月の報告では患者にアンケートを実施し調査しています。

つまり、自己申告で元の競技レベルに戻れたか否かを聞いたということです。

また少し調べてみました。

ACL術後に使われる評価基準

北海道理学療法士協会のサイトでまとめていただいておりました。

表は上記サイトからの引用です。

最も利用されている評価は筋力のテストです。

これは客観的な評価としても残せる、とてもわかりやすい評価ですね。

実際に、筋力が手術してない方(健側といいます)と比較してどれくらい戻っているのか?という基準でジョギングやスポーツ復帰を判断している病院は多くあります。

ただ、競技復帰レベルの判定にこの筋力評価が使われることはあまりありません。

なぜかと言うと、筋力(主に大腿四頭筋とハムストリングス)はスポーツ復帰の段階でほぼ戻っていることが多いからです。

というより、筋力が戻らないうちにスポーツ復帰を許可することはまれですから、復帰した上でどれくらいのパフォーマンスが発揮できるかの評価で筋力を使うことはないのです。

やはりアンケートがメイン

2番目に利用されている項目がIKDCというアンケートです。

これはネット上でダウンロードできるものです。

こちらから

アンケートですから、結局は自身の主観に基づく評価となります。

つまり、先程書いた通り、自身が「もとのパフォーマンスに戻った!」と感じれば戻ったことになってしまう評価ということです。

うーん。
これでいいのか…?

とはいったものの、私も競技復帰した選手には、

「いまパフォーマンスどんくらい?」

と聞いて選手の主観的な評価を元にリハビリやコンディショニングを進めていきます。

ある程度復帰した選手のリハビリはこうした主観を元にプログラムが組まれていくことがほとんどです。

なぜでしょうか。

それは、ACL受傷前の客観的なデータがないからです。

スポーツテストのすゝめ

ACL術後から競技復帰に向けて、なぜスポーツテストが重要なのかと言うと、

スポーツテストは受傷前のパフォーマンスを客観的なデータとして残せるからです。

医師や理学療法士は受傷前のパフォーマンスを知らない

医師や理学療法士と選手との出会いは、ACLを受傷してから始まります。

手術前にある程度膝のコンディショニングを整え、術前評価として筋力やバランスなどを評価すると思いますが、

それもあくまで、ACLが断裂した状態でのものになります。

「競技復帰を一緒に目指しましょう!」

とは言いつつも、頼りの医師や理学療法士は選手が怪我をする前にどれくらいのパフォーマンスを発揮していたのかを知らないのです。

もちろんチームにトレーナーがいて元の動きを把握してくれていればこれほど頼りになることはありません。

ただ、そういったことをしてくれるトレーナーが在籍しているチームは、やはりそれなりのレベルのチームになってきます。

選手の主観に任せていいのか?

「100%戻りました!」

リハビリ担当としてはとても嬉しい言葉ではあります。

1年近く、歩けない状態からの付き合いになるわけですから、競技に戻り、笑顔でこの言葉を言われると我々はこの上ない達成感に満たされるわけです。

でも、冷静に考えると、この選手は1年近く元のパフォーマンスを発揮していないわけです。

そういった状況で本人が感じる100%を本当の100%と判断して良いものでしょうか。

本人が試合に出たいがために何かを隠しているという可能性も十分にあります。

これは医療者に限ったことではありません。

体育館で最終的に選手にGOサインを出すのは指導者なわけですから、

「果たして本当にパフォーマンスは戻ったのか?再断裂のリスクは?」

と考えるべきであると思います。

元のパフォーマンスに戻ったから再断裂しない、というわけではないのですが、身体が以前の状態に戻っていないのに元の競技レベルを求めることは怪我のリスクを高めることにつながると考えられます。

客観的なデータを蓄積しよう!

解決策はこれに尽きます。

定期的にスポーツテストを実施し、客観的なデータを蓄積させましょう。

これは病院にいる医師や理学療法士には絶対にできない、でも喉から手が出るほど欲しいデータです。

「怪我前にはこれくらい動けていました。」

と、20mスプリントや立ち幅跳び、反復横跳びなどのデータが提示できると、現状の把握や足りないトレーニングがわかり、復帰までの軸が出来上がります。

指導者としても怪我前と同じタイムや記録が出ていれば納得してGOサインを出せるのではないでしょうか。

むしろそれ無しでのGOサインは指導者としてリスクが大きすぎるように思います。

もちろん選手にも。

おわりに

ACL手術後から復帰に向けてスポーツテストがなぜ重要なのかを書いてきました。

いかがだったでしょうか。

競技復帰において、現状は受傷前のどれくらいなのか?を知れることは非常に有益なことです。

これを本人の感覚に任せるのは危険です。特に育成年代の選手は注意が必要です。

試合形式の練習に合流するとしても、客観的な数値と照らし合わせ、

「まだ以前の8割位だから、そのつもりでね!」

と声掛けできればどれだけ良いことでしょう。

まずはACL断裂を予防することが非常に重要です。

ただ、悲しいことにその数を0にすることはできません。

であれば、受傷後にリハビリにとって有益になる情報を残しておいて損はないのではないでしょうか。

特に女子高校生、大学生、のACL断裂が多いことは研究で明らかにされていることです。

ハイリスクな選手と関わるチーム関係者は是非とも検討をお願いします。

長文失礼いたしました。

↓バスケット競技者専用スポーツテスト↓

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事