前十字靭帯を断裂して手術した場合、どんな経過をたどるのか知りたいな
こんにちは!BMSL(@Basketball_MSL)です!
この記事では実際のケガから復帰までをケーススタディとして紹介していきます。
今回は「前十字靭帯再建術後」のケースを紹介します。
前十字靭帯(以下、ACL)を断裂してからの手術、そしてどの様に復帰していくのか、その流れがイメージできるかなと思います。
当然ですが、術後の回復には個人差があります。
この選手よりも速く復帰できる選手もいれば、もっと時間のかかる選手もいます。
ただ、ある程度の流れは皆同じですので、どんな経過になるのかのイメージはつくかなと思います。
それでは参りましょう!
個人が特定されないように情報は一部加工していますが、参考にしていただければ幸いです!
ケース情報
まずは基本情報です。
- 年齢:高校1年生
- 性別:女性
- 競技:バスケットボール
- ポジション:センター
- 練習頻度:週6回 3時間程度 月曜日は休み
- これまでの怪我:膝前面部痛
女子高生ってACLのケガ多いですか?
知り合いの子も同じケガしてた…
鋭いですね。
多いんです。
特に高校1年生に多い傾向があるようです。
高校生の女子選手にACL断裂が多いことは、研究報告からわかっています。
原因は、骨格の問題、関節のゆるさ、筋力の低下、など、現在も研究がされています。
経験上では、日本で女子の高校1年生にこのケガが多いのは、競技レベルの変化と身体機能のアンバランス、が関係しているように思います。
中学から高校に上がるとき、特にリスクが高い時期であると思っています。
経緯
どんな状況で断裂に至ったか、を書いていきます。
この選手は、練習中のリバウンドで受傷しました。
着地の際に失敗し、膝が外反したとのことでした。
その時には、POP音(本人が感じるACLが切れる音)があったとのこと。
POP音…
グリグリとか、バキッとか、そんな風に感じる選手が多いようです。
直後からプレーは困難となり、痛み、腫れ強く生じましたが、なんとか歩ける状態でした。
翌日、近医受診しACL損傷の疑いで、その翌日当院受診。
MRI、徒手検査にてACL断裂と診断され、術前リハビリを開始しました。
術前リハビリ
手術の前にもリハビリするんですね
そうなんです。
意外と知られていないかもしれませんが、
超超重要なんですよ!
夏休み期間中に手術をすることが決定し、それに向けて術前リハビリが開始されました。
主な目的は、
- 筋力の獲得
- 可動域の獲得
- 日常生活復帰
です。
手術までに日常生活(階段なども含めて)が問題なく過ごせるようになることが重要です。
手術1ヶ月前には日常生活に問題がないほど回復しましたが、術後の事を考え、さらなる筋力訓練を実施。
手術前の筋力検査では左右に差がないほどに回復し、夏休みのはじめに手術を施行しました。
術後は、絶対に筋力が落ちます。
それを見込んで、できるだけ筋力はつけておくことを目指します。
膝だけでなく、体幹・下肢全体ですね。
なるほど。
落ちた状態から、さらに落ちたら大変だもんな…。
手術の情報
少し専門的ですが、手術の内容も少しのせておきます。
- 手術方法:関節鏡視下靱帯断裂形成手術
- 再建靭帯:再建靭帯の採取部は内側ハムストリングスの腱(半腱様筋腱:ST)を使用
- 術中所見:ACLは完全に断裂、半月板は問題なし。
- 術後指示:荷重制限は必要なし
荷重制限をする場合もあるのですか?
病院のプロトコールによっては最初の数週間、荷重制限をする場合もあります。
最初から荷重をかけたほうが筋力の回復は早いのですが、それに伴うデメリットもあります。
主治医にしっかり確認しましょう。
治療経過
さて、経過報告に入りますよ!
待ってました!
治療の経過は病院のプロトコルによって異なります。
最初から荷重が許可されていたり、いなかったり。
可動域訓練に制限がある場合もあります。
あくまで参考程度にご覧いただければと思います。
術後1週間
術後翌日からリハビリを開始しました。まずは炎症管理のもと、歩けることを目指していきます。
- 炎症
非常に腫れが強く、熱感も強かった。RICEを中心とした炎症管理を徹底することで、徐々に炎症は引いていった。
膝全体に痛みがあり、膝裏やふくらはぎにかけて内出血が広がっている。
- 可動域
術後翌日から膝の曲げ伸ばしを始めたが、当初痛みのため屈曲40°、伸展−10が精一杯。日を追うごとに可動域は改善したが、1週間後では屈曲100°、伸展−5°程度であった。
- 筋力
大腿四頭筋は術後3日目からやっと収縮するようになった。SLR(膝を伸ばした状態で持ち上げること)はまだできない。
- 日常性活動作
痛みにより体を動かすのも大変だったが、1週間で両松葉杖で歩けるほどになった。体重をかけることに対する不安感も減少。
術後からの回復は、痛みの感受性も含めて個人差が大きいです。
痛くて全く動けない人もいれば、ケロッとしている人もいます。
中には、「全然痛くないよ?」という人さえいるほど…。
はぇ〜
最も重要視されるのは大腿四頭筋の筋力回復です。
力が入るようになると体重をかけて歩けるようになるので、機能回復も加速していきます。
術後2週間
次に2週間後です。
- 炎症
腫れはほとんどなくなったが、熱感はまだある状態。動かさなければ、痛みもない。
- 可動域
屈曲130°、伸展0°(長座位で膝の裏が床につく状態)まで回復。屈曲の最後に膝の前が少し突っ張る感じがある程度。
- 筋力
大腿四頭筋にグッと力が入るようになる。SLRも十分可能となる。
- 日常性活動作
一応片方松葉杖をついて生活しているが、リハビリでは片足立ちなどの練習も始めた。杖をつけば、スタスタと歩ける状態。杖なしだと少しふらつく様子。
大腿四頭筋の回復は可動域の回復と関係がありそうです。
特に、伸展が0°まで到達すると、力も入りやすくなる印象があります。
関連しているということか。
そうですね。
ちなみに、可動域は膝の腫れや痛みの感受性も関連します。
なので、この時期はどこかだけ良くなるというよりは、全体的に良くなっていきます。
術後1ヶ月
この選手は、術後約3週間で退院しました。
これも医師の判断によるものですが、だいたいこれくらいが多いかなと思います。
日常生活が安全に送れることが前提になるでしょう。
退院後は外来リハビリになるので、入院中のようにリハビリや状態チェックができなくなります。
そういった意味で、セルフケアが非常に重要になってきます。
- 炎症
自宅に帰った後に少々腫れたとのことだが、次の外来では引いていた。熱感はまだ少しあるが、生活で痛みを感じることはない。
- 可動域
屈曲135°、伸展0°。屈曲の最後に膝の前が少し突っ張る感じもなくなり、長座位でスッとスムーズに膝の曲げ伸ばしができるようになった。
- 筋力
ももの前にシワが寄るほどに力がぐっと入るようになった。太さに関しては左右差があるが、筋力はしっかりとしてきた。
- 日常性活動作
階段の降りだけうまくできないが、その他の日常生活動作は問題なく可能となる。
術後1ヶ月も経つと、日常生活上であればほとんど問題がなくなります。
痛みもなくなるケースが多いため、特に学生は活動が活発になり、膝の負荷が増えすぎる可能性があるので注意が必要です。
調子が良い選手ほど注意が必要な時期ですね。
…なるほど。
術後3ヶ月
多くのプロトコールで、術後3ヶ月の状態を見てジョギングの許可がでます。
この時点で日常生活に問題がなく、ジョギングに耐えうる筋力があるか?がポイントになります。
一つの区切りといったところでしょうか。
- 筋力
反対側の大腿四頭筋の6割以上の力が発揮可能。片足立ち、スクワット、小さくケンケン等、安定して可能となる。
- 日常性活動作
階段の降りる動作も安定して可能。日常生活では全く問題ない。
- スポーツ動作
ジョギング開始。ジョギングレベルでも術側の足がまだスピードについてこれない。股関節筋が弱く体幹がブレる。
この選手は膝の調子がよく、リハビリにて痛みなく筋トレも進めることができました。
それによりジョギング開始の基準(病院による)をクリア!無事にジョギングが開始されました。
といっても急に元のようにタッタッタッと走れるわけではありません。
最初はかなり格好悪い走りになります…。
スピード、距離、歩幅、を調整しながら、状態に合わせてレベルを上げていくことになります。
術後4ヶ月
ジョギングが許可されてから、リハビリも競技復帰に向けて本格的に動き出します。
特に再受傷の予防に向けて集中的な動作改善、修正が重要ポイントになります。
- 痛み
トレーニング後に膝の前が痛くなることもあるが、翌日には残らない。
- スポーツ動作
ジョギングは安定し、距離、スピードも上げることができる。
加速走では不安感あるも、痛みはない。
ステップ動作の練習ではKnee in傾向があるため、再受傷のリスクが高いこと説明しゆっくり慎重に進めることとした。
ステップ動作などが許可されると、本格的に始まったな…という感じになってきます。
術直後から股関節や体幹の筋力訓練は行われますが、ここからは実際の動きの中でそれが機能するか?をチェックしていきます。
再受傷しちゃったら元も子もないからな…
そうなんです…。
なんとしてもそこは死守したいのですが、0にはできないのも事実です。
術後6ヶ月
術後半年、競技復帰に向けてリハビリも加速していきます。
- 痛み
運動強度が上がり、以前よりも痛み(膝の前)を感じる頻度は増えた。
- スポーツ動作
基本的なステップやダッシュ、ジャンプなどにおいてKnee in傾向が減ったため、強度を上げてリハビリに取り組んだ。大腿四頭筋の筋力はほぼ左右差がないほどに回復。
ダッシュからのストップ動作においてはやや不安感が残存。
- 競技特異的動作
体育館の練習に混ざり始めるに当たり、対人の準備として「意図しない動作」への対応のリハビリに取り組んだ。
身体をぶつけるなどのコンタクトの練習も徐々に開始。
シュート練習(レイアップも含め)は強度の強いもの以外はできるようになり、本人のストレスも少なくなってきている様子。
対人以外の練習は徐々に許可され、アップメニューなどは8割程度はこなせるようになっている。
体育館でバスケに混ざれるようになると選手の精神的ストレスは減っていきます。
ただ、これまでとは桁違いのリスクに晒されることにも注意が必要です。
特に、対人練習の開始は要注意!
術後8ヶ月
筋力の回復や動作の安定性、痛みの状態など、様々なことを加味した上で5対5の練習も許可されました。
この時期になると外来リハビリの頻度も減り、これまでの生活(部活への参加)となってきます。
- 痛み
練習後に膝の前が痛いこともある。
- スポーツ動作
ダッシュ、ジャンプ、ステップ、ターンなどはほとんど問題なく可能。恐怖心もほとんどなし。
ただ、ケガ前から比べると80%程度とのこと。
- 競技特異的動作
リバウンドなど時々怖いこともあるが、問題なく対人も可能。
ディフェンスの1步が出ない、転ぶのが怖いなどの訴えあり。
外来リハビリの頻度も減ってくるため、自己管理の重要性が増してきます。
特に、なにか変なときに無理しない、といった自分をセーブする必要性の理解が大切になります。
特に学生は無理しがちでしょうから、こちらがよく気にしてあげなければなりませんね。
まさにその通りですね。
大丈夫か?と聞くと、絶対「大丈夫です!」と答えるでしょうから…。
術後10ヶ月
ついに外来リハビリ卒業のときです。
- 痛み
たまに膝の前にあり。
- スポーツ動作
不安感なく動作は可能。トップスピードからのストップも無意識にできる。
- 競技特異的動作
試合も出場できた。
パフォーマンスはケガ前の9割程度とのこと。
無事に競技復帰となりました。
ただ、やはりケガ前と同じか?と言われると、そうではないようです。
これはデータでも出ていますが、術後10ヶ月程度で100%もとに戻れる選手はまれです。
再建した靭帯も下の機能に戻るには2年以上の時を要する、という医師もいます。
詳しくはこちらの記事で
大切なことは、外来リハビリの卒業がリハビリの終了とはならない、ということです。
どんなに調子が良くても、大手術をした膝に変わりはありません。
ケア、トレーニング、膝への手入れは必要になるでしょう。
再断裂の報告はないので、今も元気にバスケしているかな…
だといいですね。
まとめ
簡単にACL術後のリハビリの流れをまとめます。
まずは日常生活復帰
多くの場合、術後翌日からリハビリは始まりますが、まずは日常生活に戻ることが目標です。
日常生活とは、
- 杖なく、
- 痛みなく、
- 学校(仕事)に通うことができ、
- 運動意外のもとの生活が送れる
状態のことです。
ACLの単独再建の場合は、だいたい3ヶ月程度かなと思います。
もちろん最初から競技復帰を見据えたトレーニング(股関節、体幹など)は始まりますが、
まず、目指すのは日常生活復帰、ということです。
スポーツ動作は基本動作から
状態が良好であれば3ヶ月ほどでジョギングの許可が出ることが多いです。
ただ、この時点で競技に戻れるわけではありません。
基本的な動きから、膝がしっかりと機能するかを確認していく必要があります。
スポーツの基本動作とは
- 走る
- 止まる
- 跳ぶ
といった、どのスポーツにでもあるような動きのことです。
ここで何かしらのエラー動作(再断裂につながるような動き)がある場合は、そこを修正してから次の段階に進むことになるでしょう。
対人練習開始には要注意
対人練習に注意が必要なのは、自分の動きに意識を向けていられないから、です。
これまでは自分の動きに集中して動ける環境でしたが、相手がいるとそうはいきません。
- 不意な動き
- 無意識の動き
で、エラー動作が出ないか?危険な動きが制御できているか?
対人での動きは病院で確認できないことがほとんどなので、自分で管理しなければなりません。
非常に注意を要する時期です。
コーチに動画を撮ってもらって病院でチェックする、なんてこともしました。
なるほど!
工夫次第で選手を守れますね。
外来リハ終了後もセルフケアを
医療保険の制度上、リハビリにも期限があります。
100%復帰までリハビリしたいのですが、現状そうもいきません。
トレーナーやS&Cコーチがいる場合はバトンタッチですが、いない場合は自己管理になります。
ACLの再断裂は、若い選手に多い傾向があります。
そういった意味でも再発予防のエクササイズは実施してほしいところです。
エクササイズは以下の記事で紹介しています。
参考にしていただければ幸いです。
おわりに
いかがだったでしょうか。
前十字靭帯再建術後の、ある女子選手が復帰するまでの流れでした。
この選手は比較的スムーズにリハビリが進んだケースです。
特に痛みなくリハビリが進み、筋力強化ができたことが大きかったと思います。
本人のモチベーション、周囲のサポート、が良かったことは言うまでもありません。
指導者、保護者、周りの選手も含めてサポートできることが大切なんですね。
復帰までには時間がかかりますが、焦りは禁物です。
じっくり取り組むことが最終的には近道になるでしょう。
この記事で、少しでもACL術後のリハビリの流れがつかめれば幸いです。
長文失礼いたしました。
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